武田信玄のあらすじ第35話「盟約崩壊」。平成元年武田信玄に関する古文書が数多く発見された。これらを所有する菅野さん。代々武田家に仕えて来た荻原氏一族の子孫である。荻原家のこの古文書は本物との鑑定を受け、また、歴史的にも価値の高いものと判定された。何故なら信玄自筆の文書が含まれていたからである。当時、文書はその殆どを家臣が書き、領主は花押を記すのが一般的であった。
この荻原家の文書を加えても信玄自筆の者は十数点しか残っていないと言われる。今回発見された信玄の文書は家臣の病を気遣い、寺に治療を依頼するといった内容であった。厳しい軍略かとして知られる信玄。この荻原家の文書から信玄の人間性が新たに浮かび上がって来るのである。
武田信玄第35話上巻~大国の思惑~
我が子晴信にとって嫡男義信の死は重いものでございました。正に、身から出た錆、自ら命を奪ったも同然にて弁解の余地などなかったのでございます。私と致しましては三条の方の悲しみ、よくよく身に染みるものでございます。母として、子を失うは身を斬られる想いにございますれば、子が自ら命断ったのでございます。我が身を持って代われるなら、代わりたいと思わぬ母が何処におりましょうや。心からお慰め申し上げまする。
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甲斐
「駿河は塩を止めておりますれば、相模も止めるとの噂あります」
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晴信はこの席には加わってはおりませぬが、躑躅ヶ崎館主殿では重臣達が集まっております。寿桂尼殿の発案にて駿河から甲斐・信濃への塩が止めれております。塩がなくては人は生きていけませぬ。対策を考えねばならないと馬場殿が皆の考えを問います。
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「簡単な事じゃ!駿河を攻めればよい!」
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ご老体にして、血気盛んな倉科三郎左衛門殿が威勢のいい意見を述べます。山県政景(飯富三郎兵衛から名前を変えた)殿は盟約を気にしますが。
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「駿河攻めるべし!」
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海津城城代の源助、いや高坂殿もまた倉科殿に同調します。
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「高坂殿に申し上げる。駿河攻めるは上杉の思う壺では?」
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いつも冷静な陣馬奉行、原昌胤殿。上杉もまた、塩を止め、さらには北信濃へ攻め込む事も出来る。盟約終り駿河攻めれば、北は上杉、南には今川、東には北条と三方に敵を迎えます。
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「海津城を守るはこの高坂弾正である事忘れるな!」
「そうじゃ!海津城代は高坂殿が守っておる!」
「真田!ふざけている場合か!」
「まあまあ、そうカッカしなさんな」
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高坂殿は力強く反論しますが、真田がチャチャを入れます。盟約は縁が切れれば終わります。大熊殿が義信の妻、於津禰(おつね)を駿河へと送り返した後であればと言いますが。
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「戦は盟約破る所から始まるのじゃ!今夜にでも攻めるべし!」
「倉科殿は戦に30年も出ておらぬから簡単にそう言うのじゃ(疲れ)」
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既に、大国となっている甲斐の軍勢を一夜で集めて出陣するなどは出来ぬ事と真田殿。結局結論は出ず、駿河相模国境を警戒するという信廉の命で評定は終わります。
駿河・相模

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「義信殿が自害するとは(震え声)」
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駿河では義信自害の知らせを受けて寿桂尼殿が怒りに震えております。父親を追い出すような人間であり、義信の事も自ら手をかけたのだと。
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「こうなれば、益々塩止めて家臣領民を苦しませるのじゃ!」
「さすれば、信玄のような国主戴けぬと謀反が起るやもしれぬ!」
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寿桂尼様は塩止めの厳命と相模北条氏康殿にも塩止めに参加するように使者を出します。北条殿には我が孫娘、於梅(おうめ)が氏康殿嫡男の氏政殿に嫁いでおります。
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「松田、今川からの使者はなんと申しておる?」
「嫡男義信、信玄に太刀を持って斬られたと」
「我が方の間者の申すのとは少々違うようじゃな」
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今川殿からの使者を受けて北条殿にも動きがあるようです。氏康殿嫡男、氏政殿が早速今川殿の意を受けて塩止めに参加するように提案します。
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「信玄、嫡男義信を斬りました」
「謀反を起こしたのだから我が子でも斬らねばなるまい」
「悠長な事を申しておる場合ではありません!」
「氏政、武田殿は其の方にとっては義理の父じゃ。信玄等と申してはならぬ」
「はい、では武田殿の思惑を申し上げます」
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氏政殿は晴信の狙いは駿河であると告げます。今すぐにでも、塩止めに参加し武田と事を構えると言わんばかりです。氏政殿の一通りの意見を聞き終わると、
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「我が北条の一番の大敵だ誰じゃ?越後の上杉であろう?」
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氏康殿が警戒するのは越後の上杉殿。これに対抗するには武田と手を組む以外には道はないと言います。また、武田も今川殿も共に縁戚であれば、迂闊に動けば双方に角が立つ。事が起こるまでは動かないと言いますが、若き氏政殿には少々物足りないようでございます。
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「父上は信義を重んじすぎます!そんな事では天下は望めませぬ!」
「天下??」
「はい!今は皆天下を狙っています。天下を目指さぬは北条の名折れ!」
「松田、康郷、氏政の前で天下目指さぬは北条の名折れ等と言っておるのか?」
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二人はそのような事は言っていないと言います。
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「天下目指すは某の想いにございます」
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氏康殿は我が子の威勢に苦笑いを浮かべると、天下天下と、言い続けているとそのうちその声天に達し、天がその頭に落ちてきて潰されてしまうぞと冗談とも本気とも取れぬ表情で苦言を呈するのでした。
越後

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越後では、天にその想いが届かぬ事を嘆いているお方がおります。上杉政虎殿は将軍足利義輝公から一字を頂き「上杉輝虎」と改名を致しておりました。しかし、その足利幕府第13代足利義輝公は三好・松永らに御所を急襲され、足利義輝公自ら太刀を振るい応戦したものの、命を落としております。
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「酒は良いのう、酒は裏切らん」
「・・・」
「直江!その方の心を疑ってなどおらぬ、安心致せ」
「はは、今宵はお館様に是非申し上げたいことございます」
「うむ、申せ。ただ、酒が不味くなるような事は申すな・・・」
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直江殿はここ数年の戦について語ります。上杉殿は毎年のように大軍を率いて関東に出兵すると北条方の城を落します。冬が訪れる前に越後へと引き上げると、その間に北条殿が城を奪い返します。そして、雪解けを待ってその城をまた上杉殿が奪う。
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「この繰り返しは無益」
「この辺りで我が軍勢一丸となって天下を目指してみては如何でしょうや」
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輝虎殿は確かに直江殿の申すとおりと頷きます。そして、毎年のように出る裏切りにもうんざりしているとも。
しかし。
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「正義の戦に実利等求めてはならぬ」
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この乱れた世の中だからこそ、ただ、正義のために戦う我が軍勢に意味があり、いずれこの想いが天に届くと言います。直江殿としては、そこまで言われては二の句が継げぬのでございます。
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「菊丸!火花を散らそうぞ!」
「はは!」
「お館様?酔っておられるのでは?」
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輝虎殿は直江殿の心配をよそに太刀を抜くと、近習の菊丸殿と真剣にて太刀を撃ち合うのでした。
武田信玄第35話中巻~於津禰~
義信の妻於津禰(おつね)殿は未だ甲斐に留置かれております。於津禰(おつね)殿が駿河へ戻れば名実ともに縁が切れます。
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甲斐よ滅びよ
「八重、於津禰を見舞ったか?」
「姫様が二度ほど」
「何か申しておったか?」
「私は何も存じませぬ」
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晴信は三条殿に於津禰殿の様子を問います。三条殿は見るに忍びない様子であったこと、そして、もう駿河へ戻してやって欲しいと頼みます。
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「お前様に万が一にも憐れと思う心があれば」
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晴信は於津禰を駿河へと戻す事を決断します。三条殿と八重もまた悲嘆に暮れております。晴信は要件を済ませると部屋を出ます。
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「甲斐へ下り30年・・・良き事など何もなかった!!」
「我が子失う位なら、義信産まねば良かった!」
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三条殿は例え京の都が荒れ果てても、食べる物がなかくても、このような事になるのであれば、京の都に留まり死んだ方が良かったと嘆きます。晴信はかける言葉もございませんでした。
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後日、晴信と三条殿は於津禰と会っております。八重の申す通り於津禰殿ははもはや見るに忍びなきご様子でございます。
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「その方には悲しい想いばかりさせたな・・・」
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晴信は於津禰殿にこれまでの事を詫びます。そして、望があれば叶えるので言って欲しいと言います。
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「フフフ」
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於津禰殿は薄っすらと妖しく微笑みます。
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「於津禰・・・?如何した??(戸惑い)」
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三条殿が心配そうに尋ねます。
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「では、遠慮なく申しますが私の欲しい物はひとつだけ」
「お館様のお命を頂きとうございます」
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晴信はそれは叶わぬと悲し気に答えます。
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「あのお方を返せ・・・」
「義信様を返せ!!!!」
「信玄!!義信様を返せ!!!!」
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於津禰は晴信に掴みかかろうとするのを、侍女がなんとか抑えます。
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「信玄!!!義信様は生きたいと思っていたぞ!!」
「生きたいと願っていたぞ!!」
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晴信は侍女に於津禰を放すよう命じます。
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「於津禰の恨みは儂が引き受ける!」
「信玄!!!この国は滅びる!誰かが必ず滅ぼす!」
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その時。
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「義信!!!!」
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三条殿が晴信に迫る於津禰を抱きしめます。大切なものを失った二人は抱き合いながらさめざめと泣くのでございます。
武田信玄第35話下巻~盟約崩壊~
「お館様!高遠城にて雪姫様無事、男児をご出産されました!」
「おお!そうか!!義信の生まれ変わりじゃ・・・」
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この年、四朗勝頼の元へ嫁いでいた織田信長殿の養女、雪姫殿が男児を出産されました。この子は信勝と名付けられます。
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山鳴り
勝頼と雪姫の間に男児が誕生した事は信長殿にも知らされます。この頃、織田信長殿は尾張に加えて美濃も平定し尾張・美濃二国の大名となっております。
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「そうか!男児産まれたか!これで武田との縁益々深くなったな」
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信長殿は武田との縁が益々深くなり、晴信の機嫌が暫くはよいであろう事を喜びます。しかし、ようやく尾張一国を平定した桶狭間の頃とは異なり今や信長殿も尾張・美濃二国の太守。家臣からは強気な意見もございます。
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「恐れながら!我が織田の軍勢如何なる敵にも負けは致しませぬ」
「10年前の儂ならそう申したであろうな」
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信長殿は笑いなが答えると、鋭い視線で家臣達を眺めて申します。
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「川中島、西上野、越中を見よ」
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信玄が動いた時は敵は既に内側から崩れていると言います。家臣達は甲州金を積んで内応をさせているからだと苦々し気です。
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「それだけであろうか?」
「人間誰しも欲はあるが、欲だけは動かない」
「信玄の要求には何やら断れぬモノある」
「それが何かは分からぬが・・・」
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信長殿は信玄は山鳴りのようなものであると言います。要求を受け入れれば山は静まりますが、断れば、甲斐の軍勢山津波となって押し寄せる。
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「天下を獲る前に信玄の山津波だけは会いとうないの!」
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しかし、この後我がひ孫、信勝を産んだ信長殿の養女雪姫様は亡くなります。信長殿は切れた縁を再び戻すべく晴信の娘を信長殿の息子奇妙丸(後の織田信忠)に娶せせるべく動き始めるのでした。
人の心

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於津禰(おつね)は実感の駿河へと戻ります。そして、我が孫、於梅が嫁いでいた北条殿もついに塩止めに参加をする事になります。これにて、約10年続いた三国の盟約はついに崩壊を迎えるのでございます。
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「於梅、具合いが悪そうじゃが大丈夫か?」
「はい、さしたることはございません」
「そうか、実は今回其方に申さねばならぬ事ある・・・」
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小田原城では北条氏康殿が於梅に此度三国の盟約がなくなったこと、また、盟約を破りし武田家とは仲違いする事になると伝えます。於梅は氏政殿に嫁してはや10余年、5人の子供も生まれつつがない日々にございますれば、義父の氏康殿としても心苦しいものがあるようです。
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「恐れながら申し上げます」
「私はもはや武田家の者ではございませぬ」
「北条氏政殿の妻にございます」
「氏政殿の妻として死ぬ覚悟出来ております」
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於梅は氏康殿を父と思い、お方様を母と思っており、もし戦となっても気遣いは無用と言います。
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「其方の想い、氏康嬉しく思うぞ」
「どうぞ、よろしゅうお願い申し上げます」
「武田殿とは太刀持って出会わぬつもりじゃ」
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体調の悪い於梅に下がって休むように言うと息子氏政殿に言います。
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「其方は良き妻を持って幸せじゃな」
「はい」
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氏康殿は重臣の松田殿から今川殿の要望を確認します。
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「まずは、一刻も早く塩止めをと」
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北条殿としても、形式的には三国の盟約がある間は塩止めを行っていませんでしたが、事前に商人衆には状況を確認してはおりました。
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「駿河相模、越後の塩止まればいかに武田信玄とて頭下げざる得ない」
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氏政殿としては塩止めが嬉しいようでございます。
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「氏政、その方塩止めが嬉しいようじゃが?」
「はい、塩止めれば戦わずして勝てます」
「塩止まりて困るは家臣領民じゃ」
「武田の不正義正すには仕方ありませぬ」
「そうであろうか??」
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氏康殿は百姓領民を苦しめて「勝」を拾うなどは粗末な兵法であると言います。いつか甲斐・信濃が滅び北条殿の領地となったとしても塩止めの恨みを忘れず、必ず裏切ると。
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「では!塩は止めぬのですか!?」
「塩は止める!!」
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今川の苦しき立場を思えば止めざる得ない。
しかし。
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「喜んで止めるのはない」
「は!承知致しました」
「氏政、心せよ、人の心知らずして国は動かせぬぞ」
「はい、これより塩止めて参ります」
「梅の心をよくよく想うのじゃ」
「梅は北条の者として死ぬ覚悟出来ております。その事忘れませぬ」
「違うのじゃ氏政(頭痛)」
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氏康殿は一瞬疲れた表情を見せます。梅が例え北条に嫁ぎ子を成せど父母を忘れるわけではない。苦しい胸中の中、言葉の裏で父母をよしなにと言っていると。
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「その気持ち分からず、嬉し顔で塩止め等してはならぬ」
「塩止めするは、梅の想い殺すものと思え」
新しい男
「もはや三国の盟約破れた」
「我が甲斐は駿河、相模、越後と三方に敵を迎える事になる」
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その頃、越後の上杉殿、そして我が甲斐の晴信の元へ使者が来ております。
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今宵は此処までに致しとうございますが、その前に気になる方を1人ご紹介を申し上げたいと存じます。
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三河国の国主、徳川家康殿にございます。
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