武田信玄(大河ドラマ)のあらすじ第5話。男の神が女の神に会いに行く時に出来ると言われる裂け目「御神渡り」。現在縁結びの神様として知られる諏訪の神様は古くは農耕狩猟の神として、そして戦国時代は荒々しい戦の神として崇められていた。その諏訪を治める諏訪頼重は近隣豪族と結び甲斐と対立していた。晴信が家督を継いで一ヶ月。諏訪の象徴として手に入れたいのが湖衣姫である。

武田信玄第5話上巻~国造り~

晴信は家督を継いで一ヶ月の月日が流れていました。闇に消えてしまった湖衣姫の行方は依然分かりませんが、あの日以来、お館様として忙しい日々を過ごしております。お館様となられては日々決めなければならぬことが山積みにございます。内政、外交、軍事、そして御裏方のこと。

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三男信廉

「儂はこのままでよい!」



「しかし、棟梁たるものここがお館様の居場所にございます」



「儂がここへ移るという事は三条達もこちらへ来るという事じゃ」



晴信は家督を継いだものの、未だ住まいは家督を継ぐ前のまま。「お館様」が住むべき部屋へは移っておりませんでした。それは、勿論忙しさもあったとは思うのですが、移る事になれば、三条殿と、そのお世話をする方々も裏方へ移る事になります。



「尼寺が立ち、母上が移るまではそのままでよい!」



裏方の私(大井婦人)の部屋では三男の信廉が私の画を描いております。嫡男晴信、次男信繁と異なりこの信廉は少々変わり者で画などをよくします。私は信廉の指示に従い鼓を持って、ジッとしております。そこへ晴信がやってきます。



「母上!お話しが・・・」



「ああ!また動いた!!!兄上がくるから!」



信廉が描いていた画をまた丸めて捨ててしまいます。



「母上に用があるのだ。母上は石地蔵ではないぞ!」



「動いていては画は描けません!」



信廉は口を尖がらし晴信に反論しています。私は晴信に後にするように伝えます。晴信は苦笑いを浮かべて部屋から出ていきます。信廉はまた半紙と筆を持ち、私を見て画を描き始めます。晴信が部屋を出るとそこには、奥へと上がった里見殿が。私(大井夫人)が渡した小袖を着ると、随分と雰囲気が変ります。ただ、里見殿の積極的なご気性には裏方は暇なようで、晴信に馬に乗せて欲しいと願っています。



「女子が馬など聞いた事がない!(笑)」



晴信はその申し出を笑っておりましたが、里美殿の、その三条殿や湖衣姫様とも違った美しさに少々驚いたのもまた事実のようでございます。

原晶俊

「原!待たせたな!」



晴信が広間にやってきます。



「はは!」



広間には板垣殿、甘利殿、そして信虎殿より「晴信追放」の密命を帯びていた、原晶俊殿(原美濃守原虎胤とは別の人)が平伏しております。



「韮崎でお館様(信虎殿)の命に従っていたのは至極当然じゃ!」



晴信は「自分自身の追放」に加担していたことで、恐縮しきりの原晶俊殿に努めて明るく話します。



「で、お主はこれからどする?」



晴信はこのまま甲斐に留まるもよし、駿河へ向かうもよしと伝えます。原晶俊殿は晴信の指示に従うと言います。



「では!我が甲斐へ留まれ!お主の陣馬奉行としての力量知らぬものはない!」



そして、板垣殿、甘利殿の二人が原晶俊殿を是非とも甲斐へ留めおくようにと懇願されたことも併せて伝えるのでありました。

新しき力

晴信は館の外で原美濃守殿、そして3人の百姓のに迎えらています。



「この者たちか?」



「はい。先の諏訪勢との合戦で手柄を立てた者です」



三人は源助、平三、平五と言います。まず源助が技を見せます。原美濃守殿が言うには、先の諏訪勢との戦で5人を手製の弓矢で仕留めたと言います。早速、弓をつがえて射ます。



「うむ!百姓にしては見事な腕前じゃ!」



源助が放った弓は正規の弓ではないものであるにも関わらず、全て的の真ん中を射抜いておりました。そして、次は平五。この者は投石が得意なようです。早速原美濃守殿から技を見せるように言われますがこちらは・・・。



「何をしている!」



原美濃守殿の怒声が響きます。平五の投げた石は的を準備していた近習に見事に命中してしまいました。平五は投石が得意なのですが、どうやら第一投はいつも外してしまうようです。次も外したら釜無川で逆さ吊りと脅されて再度投げると!



「見事じゃ」



改めて平五の投げた石は次々と的の中心付近に命中しました。平五は「一投目」はいつも上手くいかないようでございます。晴信は彼らの処遇は原美濃守殿の任せる旨を伝えると、今度は飯富殿と釜無川へ向かいます。



「この辺りがいつも堤が決壊します」



甲府は盆地になります。釜無川が決壊すれば田畑は水浸し。ここ数年は毎年氾濫を起し、甲斐は凶作の年が続いております。晴信と飯富殿は釜無川沿いにしばらく馬をはしらせ、二人の人物と会っています。



「鎌田!今井!」



この者たちは鎌田十郎左衛門と今井兵部である。2人は信虎殿の時代に武田家を出奔し第2話で倉科党と共に晴信に謀反を願い出ていた元奉行衆である。信虎殿追放後、すぐに戻してしまえは残っていた者に示しがつかない。もし、甲斐のために役に立ちたいのであれば、諸国を回り役立つ情報を集めて欲しいと言います。



「耕作、川の氾濫、軍事、金山などすべて」



2人は必ずや役に立つ情報を持ち帰ると宣言するのでありました。

諏訪の様子

「湖衣はなぜ諏訪に戻らんのだ!」



諏訪では諏訪家重臣の千野伊豆入道殿が頼重に甲斐の幽閉先から湖衣姫を奪還したことを報告をしております。



「国境は警備厳しく易々とは越えられません」



「湖衣さえ諏訪へ戻れば晴信などは一気に攻め滅ぼす」



諏訪頼重殿は信虎殿を失った甲斐は国乱れており、晴信が国を整える前に攻め滅ぼさなければならないと言います。もし晴信が国整えば、まず最初に攻めるはこの諏訪であると言います。



「北条・今川と比べれば我が諏訪は小さい」



その頃晴信もまた、近習の甚三郎に命じて湖衣姫を探しておりました。諏訪に放った間者からは諏訪にはまだ湖衣姫は戻っていない旨報告があります。晴信は是が非でも湖衣姫を探すように命じるのでした。

武田信玄第5話中巻~家族~

信虎殿は駿河での生活は何不自由はございません。そこへ、久しぶりに客人がやって参ります。

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らん、信虎の元へ

この日甲斐より信虎殿を慕ってらんが駿府へやってきました。駿河の館は初夏を迎え、ツクツクボウシが鳴いております。信虎殿は不信の目を向けておりますが・・・。



「何しに来た!わしを嘲りに参ったのであろう!」



信虎殿はらん殿を信用していません。らんは必死に信虎殿をお慕いしていたからやってきたと言いますが、中々信じてはもらえません。



「晴信に言われて儂を監視しに来たな!?」



「決してそのような!」



「晴信は儂に罠を仕掛けるつもりだな!?」



「本心からお館様をお慕い申し上げております!その証拠をお見せ致しまする!」



「晴信がそうせよと申したのだな?見せて見よ!」



らん殿はそれには応えずに、信虎殿を押し倒すのでありました・・・。ツクツクボウシは逢瀬の様子に興奮を隠せぬかのようにひと際早く鳴くのでありました。



三条殿ご出産

夜、晴信は信虎殿の部屋、いや、甲斐国主が住まうべき部屋に1人座っております。ここに座ると自然と居住まいが質される気持ちになります。そこへ突然、太郎の手を引いた三条殿がやってきます。



「甲斐国主の妻としてお裏方に住むのは私です!にも関わらず、里見とかいう側女を!」



三条殿は倉科三郎左衛門の孫娘の里見が私(大井夫人)の世話のために、裏方に入った事を申しておりました。晴信は里見殿はまだ側女ではないこと、私の身の回り世話のために裏方に入った事を説明します。



「この三条、欺かれませぬ!」



晴信は身重の身体で幼き太郎を連れてこの夜中にそのような事を言うとはと、呆れて気味ではありましたが、三条殿は泣きながら晴信を真っ直ぐに睨んでいます。太郎が三条殿の涙をそっと拭いてあげております。



「誰か!三条を部屋まで案内してやってくれ・・・」



近習を呼び、二人を部屋へ返そうとします。



「う、、お腹が!」



「三条!?」



突如三条殿は産気づきます。そして。



「おぎゃあ!」



無事、晴信にとっては二人目の男の子が誕生致したのでございます。

太郎

晴信は弟次郎が産まれて間も無く、嫡男太郎と重臣の飯富兵部を伴い野駆けをしております。甲府盆地が良く見える所まで来ると太郎に、将来はこの甲斐の国を治めなければならないこと、立派なお館様になるのじゃと伝えます。幼い太郎は甲府盆地を見ながら「はい!」と返事をします。




そして、晴信は甲斐に伝わる甲府盆地発祥の伝説を太郎に聞かせます。



遠い昔、この甲府盆地は湖であった。そしてその湖の上で12人の神様が舞っておった。そのうちに、二人の神様が空の彼方に飛び去り、1人の神様が湖の中に消えられた。その後、水がなくなり盆地が現れたのじゃ。残った9人の神様をお祭り差し上げるのが天津司舞じゃ。





丁度行われていた「天津司舞」を見ながら晴信は楽しげに話します。そして、不意に帯同していた飯富兵部殿に言います。



「いきなりだが頼まれてくれるか。太郎の傅役になってもらいたい」



「これはまた・・・私が若殿の傅役などといった大役は務まりません・・・」



「お前になら安心してわが想い託せる」



晴信は自分は父に厳しく育てられた。そして傅役の板垣もまた厳しい男だが、それがあったからこそ今の自分があると言います。ただ、晴信は父信虎殿を追放しました。自分自身にいかなる「理」があってもよい事をしたとは思っていないこと、太郎はまた自分とは別の人間育ってほしいと言います。



「傅役、引き受けてくれぬか?」



「はは!身に余る光栄にございます。命を賭して」



「そうか!」



こうして、太郎の傅役には飯富虎昌殿が内定を致しました。

母と妻

無事次男次郎が誕生し、母子ともに健康な状況です。晴信も無事男子を産んだ三条殿を労わります。三条殿はここぞとばかりお願いを儀があると申します。



「御裏方へ移らせて下さい」



「また、その話か(うんざり)」



晴信は多少げんなりしますが、三条殿は食い下がります。国主の妻が裏方へも入れずに子を産んだ事が都に伝わればもの笑いの種。噂が出る前に裏方へ入ればこの次郎は国主の子として裏方で産まれた事になると。八重殿もこのままでは三条家の家名にも傷が付くと言います。



「そこまで、裏方へ移りたいか・・・」



「はい・・・」



晴信は難しい顔をして黙り込んでしまいました。後日、晴信は私の元へ参ります。



「母上にお願いの儀がございます」



「申さずともよい。私は明日、日が昇る前に長泉寺へ移ります」



「そのような事をお願いに参ったのでは・・・」



晴信は恐縮していますが、御仏に仕える身としては一日も早く俗世を離れなければなない。尼寺もじきに立ち上がる。幸い信廉の画も完成した私には思い残す事はなく、思う存分にこの国を創るようにと晴信に伝えます。



「私の事も父上の事も忘れなされ」



「其方にとって一番の大事はこの国と、この国の民じゃ」



早速、準備を整えると近習二人と長泉寺へ向かいます。晴信が館の外まで見送りにやってきます。まだ夜も明けきっておらず、護衛を伴うよに提案して参ります。私は、御仏に仕える身が兵を伴いて寺へは入れないと断ります。

しかし。


「やはり物騒にございます!晴信がお送り致します!」



「いったいどうしたというのじゃ?其方は甲斐の国主。幼子のような事をしてはなりません」



「夜盗や邪気が辺りに満ちております!」



「もし、この身に不幸があればそれもまた御仏のお導き。私の生涯は終わっておる」



晴信もようやく諦めます。私は長泉寺へ向かって歩きます。
すると。



「母上!父上を奪いしこと!お許しくださいませ!」



尼寺も立ち上がり、御仏に仕える身となりましてございます。俗世を離れてみれば少しは世の中も見えるかと思いましたが、やはり、心配なのは我が子晴信の事にございます。そして、1年の月日が流れたのでございます。

武田信玄第5話下巻~諏訪へ~

天文11年(1542年)久しく開催されていなかった軍議が開かれます。晴信が家督を相続してから久しく軍議は行われておりませんでした。

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議論百出

晴信は軍議を招集し、今後は甲斐の行末のために軍議を定例で開く事、そして、身分の上下を問わず意見を言って構わない事を伝えます。また、軍議が「旗本(直臣)」のみで豪族たちを招いていないのは合議を秘するためでなく、最後は我らの力のみた頼みであると覚悟するためと宣言します。



早速意見が百出します。



「馬場信春申し上げる。豪族衆を招かない会議等無意味!豪族と言えどもお館様家臣!豪族衆も呼ぶべきです!」



「甘利虎泰申し上げる。軍議とは心の内の確かなものでするもの。そうでないものと国の行末話し合う事など出来ぬ!」



「馬場信春申し上げる。甘利殿、我らが北条と戦するとして北条勢は約1万。我らだけでは精々3千。1万と3千でどのように戦う?しかし、我が甲斐軍勢集めれば約8千!初めて戦が出来るというもの」



「大野長左衛門申し上げる。今年も凶作の雰囲気がありありじゃ。そもそも戦など出来るのか??」



「勘定奉行!その辺りはどうなのじゃ?」



「昨年の金山は8,000両、付加収入が3,200貫程度、また、本年の作柄は中の下と推し量ったいるので、昨年をかなり下回ると思われます。並の戦で兵3,000を動員すれば1月以内であれば約900貫、一月を超えれば、兵の食料の追加が必要となり1日辺り約25貫が必要になります」



「ええい!で、戦は出来るのか?出来ないのか??」



「戦の規模のよります。大きな戦なら一月以内、小さな戦なら、今の所さしたる心配はございません。ただし、勝ち戦に限ります」



「私、戦をせぬ手立てはないかと思います!」



「今は軍議ぞ!?」



「戦だけが軍議ではない!和睦も軍議の内!」



「我が甲斐は四方を敵に囲まれておる!戦わなければ滅ぼさる!」



「四方の敵と和睦すれば良い!戦は勝つとは限らん!」



「この腰抜け!!」



「何を!」



「静まれ!御旗楯無の元でなんたる醜態じゃ。二人ともつまみ出せ!」



「よい!前田、谷川そちたちは足軽大将ではないか!我らが1つにならずにどうする」

晴信の宣言

「今、諏訪勢が国境に押し出さんとしている。諏訪頼重の背後には小笠原長時、村上義清がおる。もし、これらの者が結び国境に押し寄せれば我らだけでは太刀打ちできぬ。そのような事になれば今川北条も我さきにと押し寄せてくるであろう。諏訪を攻めるは今を置いてない。ここにいる我らだけ諏訪を攻める。出陣は明日の夜明けじゃ」



「出陣に当たりこの館にはただ一人の男も残さない。表門も開け放て。豪族たちにわれらの気概を示すのじゃ」



「晴信、甲斐国主として家臣である豪族達を疑ったりせぬ。甲斐は一つ。それを乱すものは厳罰に処す。出陣に備えよ!」



出陣

晴信は旗本勢のみ3,000にて出陣しましたが、晴信の気概を見て多くの豪族達が晴信の元へ集って参ります。




今宵は此処までに致しとうございますが、我が子晴信はこの戦を二つの事のために始めたのでございます。




一つは豪族たちを掌中に納め、甲斐を一つにするため。




もう一つは湖衣姫殿に会いたいがためにございます。




晴信は湖に消えた神様が湖衣姫に生まれ変わりこの世に現れたと思えてならなかったのです。

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