武田信玄(大河ドラマ)のあらすじ第9話。現代は戦略の時代と言われる。核戦力をいかに封じ込めるか。戦略の極意は今宇宙にまで展開されている。囲碁はその戦略的な性格から多くの戦国武将が愛好した。伝えられる棋譜によれば、あまたの戦略家の中でも晴信の実力は群を抜いている。



「なかなか、戦上手という感じですね。戦略家だから戦が上手いわけだ。
※(坂田栄男名誉本因坊談)



よく攻め、よく凌ぐ。囲碁からも当代一の戦略家だった事が伺える武田晴信。その強さは独自の戦略をして、戦をしたからに違いない。

武田信玄第9話上巻~初夜~

女子の立場から申せば此度の祝言は我が子晴信の我儘にて、何一つ麗しき事ございません。何やら我が夫、信虎殿の所業を思いだすのでございます。男(おのこ)というものにもって生まれた性(さが)なのでございましょうか。

→武田信玄(大河ドラマ)の感想第9話「女のいくさ」へ

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刺す

晴信が湖衣姫殿の元へ初めて渡ってきます。湖衣姫殿はたき殿が隠した短刀の位置を目で確かめると深々と頭を下げまする。



「探し続けた。儂を恨むか?」



「儂は諏訪を滅ぼし、其方の父上を奪った」



「怨んでも構わぬ。其方をわが物にしたかった」



「其方をわが物にしたかった」



晴信は湖衣姫殿を寝床へ押し倒します。
そして、



「何か申せ?恨み言でも構わん」



湖衣姫殿は押し倒されたまま何も言わずに手だけで寝床の下に隠された抜身の短刀を探ります。
そして、確かに短刀があることを確かめると、そっと晴信の背中に構えます。



「刺してもよいぞ」



湖衣姫殿の表情が歪みます。



「其方に命を奪われるなら本望じゃ」



湖衣姫殿は押し倒されたまま晴信の背中に短刀を当てます。ゆっくりと背中に刺さります。



「それでは、命を奪う事は出来ぬ」



湖衣姫殿は短刀を落すと、晴信を受け入れたのでございます。

祝言の夜

「真田は今晩中に儂が斬る!祝言に碁盤を持って領地を賭ける等と」



馬場信春殿は真田幸隆殿が何か魂胆があってやってきたものと考えております。近くに手勢が隠れている可能性もあり、今夜にでも斬ると言いますが、板垣殿は「祝言を血で汚してはならない」と窘めます。



「警備は万全、何処に敵が隠れているというのじゃ!」



呑気に酒など飲んでいては敵に襲われるかもしれいと言う馬場殿に、甘利殿は警備は万全と言いますが聞く耳を持ちません。ついに、板垣殿が厳命します。



「今宵を血で汚してはならん」



「第一、祝言の客人をお館様に断りもなく斬るなどできぬ事じゃ。頭を冷やせ」



板垣殿はそう言うとその場を後にしますが、馬場殿は納得できてはいないようでございます。板垣殿らには内密で自らの手勢で幸隆殿の姿を探します。しかし。



「真田様のお姿何処にも見当たりません!」



「馬鹿な!部屋で寝ているはずだ!屋敷は厳重に警備されているのだ!」



夜陰に紛れて暗殺の決行を謀ったものの、当の真田殿のお姿が何処にもないと言います。そして、その真田殿は。



「ぐ~・・・ぐ~ぐ~」



部屋に響く数人のいびき。



「こらこら!皆でいびきはわざとらしい。半分は寝息に致せ」



真田殿は深夜、自身が割り当てられた部屋を抜け出し、小者が寝ている部屋に数名の家臣と紛れていたのです。



「ここが一番安心じゃ。わしは寝るぞ」



半分は寝息、半分はいびきを演じながら、真田殿の家臣達は眠れぬ夜を過ごしたのでございます。



八重殿動揺

翌朝。
裏方の主である正室、三条殿の元へ湖衣姫殿がご挨拶に参ります。いつもは、強気な妖女然とした八重殿が不安そうな面持ちでございます。



「八重、湖衣姫がおここの怨霊かどうかはすぐに分かる」



「はい(怯え)」



「おここがどのような女子であったかこの目で見たかったものじゃ」



勿論、おここの顔まではしらないという事もあるかもしれませんが、流石は三条殿にございます。動揺の欠片も見えませぬ。すぐに、湖衣姫殿がやってきた旨知らせが参ります。湖衣姫殿と乳母のたき殿は部屋へ入ると深々と頭を下げます。



「湖衣姫様、この度御裏方へ入るにあたり、まずは三条のお方様にご挨拶と考えお目通りをお願い申し上げた次第にございます」



まずはたき殿が申します。八重殿は既に動揺が隠せないようでございます。



「お世話になりまする。どうぞ末永くよろしゅうお願い申し上げまする」



湖衣姫殿がご挨拶を終えると、三条殿が満面の笑みを浮かべ、



「美しい女子じゃ。お館様もさぞご満足さんであらしゃいましょう」



「昨夜の契りは如何であった?」



昨夜の晴信との契りに関して問われ動揺する湖衣姫殿とたき殿。三条殿は畳み掛けます。



「お館様はなんと申された?ん?申してみよ?黙っていては分からん。申せ!」



たまりかねたたき殿が代わりに助け舟を出します。



「お許しくださいませ。そのような事、湖衣姫様のお口からはお答え致しかねまする」



しかし。



「たきと申したな?我が前で「湖衣姫様」とは無礼であろ?湖衣は二人目の側女にすぎぬ」



「答えよと申したら、答えればよいのじゃ!」



湖衣姫殿は頭を上げると満面の笑みを浮かべます。



「申し上げまする。お館様は殊の外お喜びにございました」



その姿についに、八重殿の動揺が頂点に達しまする。



「其方は何者じゃ?湖衣姫の姿を借りた怨霊であろう!!?」



八重殿は湖衣姫殿の背中を何度も何度も叩きます!



「八重を離せ!」



三条殿が命じると侍女たちが興奮冷めやらぬ八重殿と湖衣姫殿を引き離します。たき殿はあまりの屈辱に抗議します。三条殿は八重殿がそのような行動に出た理由を説明します。



「八重は湖衣に怨霊が宿っていると思っているのじゃ。おここと湖衣は瓜二つ」



「おこことは何者にございますか?」



たき殿の問いかけに三条殿が答えます。



「おこことは、かつて山で命を奪われし端女(はしため)の事じゃ」



「その端女に、お館様は触れられた事があるそうな」



湖衣姫殿は何が起こったのかも理解できない様子で、ただ、三条殿を見つめるのでございます。

正室と側室

湖衣姫殿とたき殿は三条殿との謁見を終えて戻っております。たき殿は兎に角泣いております。



「ここは鬼の住処にございまする(泣)」



「泣いてはならぬ。泣いたら負けじゃ」



「こうなれば武田殿をあの方から奪ってみせる」



湖衣姫殿のお部屋には里見殿が来ておりました。里見殿は最初は侍女として裏へ上がりましたが、現在は側室となっております。



「三条のお方様と何かありましたか?」



「いえ」



「里見はそなたの味方じゃ。遠慮はいらぬ。同じ側室の身ではないか?」



三条殿と八重殿のご気性を知る里見殿は優しく問いかけますが、乳母のたき殿はこれに猛然と抗議します。



「姫様は側室等ではございません!姫様は攫われたのでございます!」



里見殿は好むと好むまいと正室がいる所へやって来た女子を側室と言うのじゃと、これまた優しくたき殿に言いますが、たき殿はただ泣いております。そして、



「もし、お館様を三条のお方様から奪うのであればこの裏方を奪わねばなりません」



里見殿はその覚悟をと湖衣姫殿に促すのでありました。



その頃、八重殿はまだ先ほどの茫然から立ち直っておりません。珍しく、呆けたようなお顔でございます。



「八重!」



「はい」



「湖衣はおここの亡霊等ではない!」



三条殿は気丈にそう言うと、もし怨霊であれば湖衣姫殿を叩いた八重殿の手は腐り始めていると言います。そして、今一度八重殿に問います。



「それ程までに似ているのか?」



頷く八重殿。



「お館様は未だ、おここの面影を追いかけているのですね。この三条、正室とは名ばかり(泣)」



泣き崩れる三条殿に八重殿は必ず、自分が三条殿を御守りすると言うのであります。最近精彩を欠いていた八重殿はようやく我を取り戻したようでございます。

武田信玄第9話中巻~囲碁~

翌朝。何処からともなく何事もなかったかのように真田幸隆殿が現れます。




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囲碁で天下を獲る

「いやー!!!中々今朝は冷えますなぁ!」



部屋には板垣殿と晴信、幸隆殿を案内してきた馬場信春殿、それに幸隆殿。



「甲府は盆地にて冷えまする」



晴信が答えると、板垣殿が幸隆殿に席を勧めます。



「我が領地を賭けた大勝負!気が引き締まりますな!」



「負ければ、領地を失い無一文になりますぞ」



「左様、残るは褌のみ!しかし勝てば!この甲斐に我が領地増えまする!」



「では本気で、真田庄をお賭けになるおつもりか?」



「その通り!このまま碁で領土を広げていけば、戦せずいずれは天下も獲れる!これは妙案でござろう?」



「承知した。では、真田殿、参ろう!」



「では!某(それがし)黒を頂く!某、この盤で若年の頃より修業致し、未だ負けなしでござる」



晴信が黙って幸隆殿の表情を見ていると。



「武田殿、某の顔をみても某の腹は読めませんぞ。某の笑顔は皮一枚の事にございます」



かくして、ついに前代未聞の領土を掛けた囲碁が始まりました。

いざ、勝負

いよいよ勝負が始まります。
幸隆殿が先手。



「天元(碁盤の中心)は万物の始まり!この一手で我が勝なり」



晴信は幸隆殿の「三味線」に苦笑しながら黙って一手、打ちます。



「我が意、敵は知らず」



相変わらずの「三味線」です。晴信は黙ってさらに、打ちます。



「まず、領土を広げる」



晴信の顔にもう笑顔はありません。また一手。



「敵の眼を欺く!」



晴信は迷わずに一手打ちます。



「奇襲を掛けて敵の力を試す!女子口説くに似たり」



兎に角しゃべる幸隆殿。晴信の表情に初めて動揺が浮かびます。そして、十数手進みます。



「お館様、そこはちと・・・」



あれよあれよと言う間に勝負は晴信が劣勢にございました。板垣殿がたまりかねて「待った」をします。



「武田殿は中々よい重臣をお持ちじゃ!三人寄れば文殊の知恵(苦笑)」



真田殿は人を喰ったようなご発言にございます。



「パチ!!!」



晴信は板垣殿の言葉を苛立ち気に無視して「そこは」と言われた所に打ちます。板垣殿は「嗚呼ッ!」と天を仰いでしまいます。



「思慮無き猛進矢の餌食」



晴信の劣勢は誰の眼にも明らかにございます。真田殿の猛攻と「三味線」は止みません。



「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らん(えんじゃくいずくんぞこうこくのこころざしをしらんや)」



「無礼な!!!」



自分を鳳に例え、晴信を雀や燕の小鳥に例えた事に控えていた馬場殿が激昂します。
しかし。



「やかましい!!!」



晴信が馬場殿を怒鳴り付けると、幸隆殿は意外な行動に!碁盤を崩してしまいます。



「儂の負けじゃ。約束通り、我が真田庄を武田殿に献上つかまつる!」



晴信は馬場殿を部屋から追い出すと、家臣の無礼を詫び勝負の継続をねがいます。


「既に碁に非ず。胡麻塩にございます」



晴信は碁盤を元に戻そうとしますが、真田殿は勝っても領地を貰う気はないと言います。さらに、武田の家臣の末席に加えて欲しいと希望するのであります。



これに道理に合わないと言う晴信に幸隆殿は道理に合うように説明します。今後、武田が信濃を領国化するにあたり、葛尾城の村上義清と戦う事になるはず。そして、葛尾城への通り道に真田庄がある。そうなれば、小豪族の真田殿は村上義清殿と共に武田勢と戦う。負けが見えている。



板垣殿はそれでも反対します。真田殿は信濃のお方であり、村上義清殿と談合の上来ている可能性があると。幸隆殿は苦笑しつつ言います。



「ならば、如何する?」



「斬りまする」



「そうやすやすと・・・」



言い終わる前に板垣殿の刀が幸隆殿の鼻先にございました。



「板垣殿と申したか?其方太刀の手入れが行届いていないようだな。切っ先に綿埃がついており。フッ!」



晴信が笑いながら宣言します。



「板垣!そちの負けじゃ!碁で負け、太刀で負け、言葉で負けた上に疑うは恥の上塗り。家臣にお迎えいたそう!」

勝負

「真田城か」



晴信が北信濃の絵図を見ながら独り言ていますと、先ほど晴信に叱責された馬場殿がやって来ます。



「申し訳ございません!馬場信春腹を斬ります!」



「腹などいらん!近こう寄れ。何をしている!早く!」



晴信は馬場信春殿に真田庄の様子を探ってくるように命じます。特に、村上義清殿との関係について。



「真田幸隆、怪しげなところ多々ある!北信濃の動き探ってくるのじゃ!」



馬場殿は急ぎ、北信濃へ立つのでした。

武田信玄第9話下巻~おんなの戦い~

晴信が馬場殿に命じた後、甚三郎殿がやってきます。そして、裏方で「湖衣姫は死んだ女子の怨霊」との噂が広がっていると報告します。

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裏の事は裏が決める

「噂を流したのはその方ではあるまいな?(笑)」



「そのような事は決して!」



晴信はもちろん甚三郎殿がそのような事をするとは思っていません。晴信はまず、湖衣姫殿の元へと向かいます。



「三条には会ったか?」



「先ほどお目通り叶いましてございます」



晴信は乳母のたきの様子から「何か」あった事察します。湖衣姫殿に何があったのかを問ても何もないと言いますが、たき殿はついに、先ほどあった一部始終を話します。



「八重殿はおここの怨霊と言って何度も何度も」



何度も背を打たれたことを伝えると、晴信は黙って三条と八重の元へと向かいます。



「八重に天罰が落ちます(笑)」



たき殿はしてやったりの笑顔にございます。

八重 対 晴信

晴信は三条殿と八重殿の部屋着くと、待ち構えていた八重殿を問い質します。



「八重。その方おここの怨霊が取り付いていると、背中を打ったそうだな?」



「はい。取り付いた怨霊を追い出さなけれなりません」



晴信はおここと湖衣姫殿が瓜二つである事を知っているのは、晴信自身と甚三郎殿だけであること、もし、八重殿がおここのことを知っているのであれば、6年前に命を奪ったのも八重殿だと言います。



しかし。



八重殿はおここと湖衣姫殿が似ているというのは「お館内の噂」であり、当然自分はおここの顔などは知らないと言います。晴信は「噂を流した人間がおここを殺害した犯人」であり、必ず捜すと言いますが、



「早く見つかる事をお祈り申し上げます」



八重殿は完全に立ち直っております。晴信は今後、二度と湖衣姫に手出しをしてはならぬこと、そして、もし、手出しをすれば八重殿の首が飛ぶと言い捨てると部屋から出ようとしますが、



「畏れながら申し上げまする」



八重殿は晴信に畳み掛けます。
裏方の采配は正室である三条殿の管理下にあり、今後どのような事が起きても、それは三条殿の差配により決すると言います。



「お館様のご意向を持ってしても裏方の事へは口出し出来ぬと承っております」



「そのような事が誰が申したのだ?」



「姫様御下向のおり、将軍家より承りました」



晴信はもし、そうであったとしても事が起れば自分も介入するということ、また、二度と湖衣姫に近づいてはならぬと怒鳴りつけます。



「情けのうございます」



三条殿は自分の前で側室の事で色を成して怒る晴信を情けないと言います。そして、幾たびでも側女を連れればよいと言い放ちます。



「この三条、太郎次郎のために忍びます」

「ここが一番落ち着く」



晴信は湖衣姫殿、そして三条殿の争いに疲れ果て、やってきたのは里見殿の元でございます。晴信は里見殿の膝枕でくつろいでおります。



「お館様は里見の様な女が一番なのです。同じ山を見て育った」



「そうかもしれんの」



「にも関わらず、一度もこちらへお渡りになりません。それほど里見がお嫌いですか?」



晴信はそうではないと答えると、里見殿を見ていると自身の妹禰々を思い出すと言います。里見殿は晴信にとって身近過ぎると。里見殿は意を決してお願い事を言います。



「里見を女武者にして下さい!」



里見殿は女武者となれば戦場であっても晴信の側に仕え、お世話も出来ると言います。ただ、晴信は首を縦には振りません。



「源平の御代ならいざ知らず」



現在の戦場で女武者が活躍できるようにな雅さはもうないと言います。そして、禰々が元気になるように、里見にも祈って欲しいと言うのでした。



天文12年(1543年)のお正月も終わる頃。禰々がこの世を去りましてございまする。

「必ずやこの川、わが想い通りにしてみせる」



晴信は兼ねてからの懸案である御勅使川(みだいがわ)の洪水対策を練っています。以前、新し川を掘るとおいう案がありましたが、実現性に疑問がある事がわかり新しい案の説明を受けています。




御勅使川の流れを北に変えて、釜無川との合流地点を釜無川の大きな赤岩があるあたりにする事で、勢いを弱め、洪水を防ごうという案でございました。
その時。



「お館様!!!」



遠くより一騎の武者がやって来ます。飯富殿は中々の乗り手と褒めますが、いったい誰なのか?



「ん?あれは里見殿では?」



「いったい何事じゃ?」



「只今、三条のお方様、湖衣姫様を伴い積翠寺へ行かれた由にございます!」



嫌な予感がする晴信。里見殿が知った時には既に晴信は御勅使川へと向かっており、急ぎ知らせに来たと言います。



「積翠寺へ参る!!!」



晴信と里見殿は積翠寺へと馬を走らせます。

積翠寺

「なんともいえぬ静けさじゃ」



三条殿が優雅に申します。



「良いお天気に恵まれて。さ、暖かい内に召し上がれ」



八重殿がみたらし団子を勧めます。



「はい(ゴクリ)」



湖衣姫殿はその団子に箸をお付けに・・・。

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