武田信玄のあらすじ第32話「わが子幽閉」。武田家の悲劇「義信事件」の歴史的記述は殆どない。「いきなりだが、太郎の傅役になってもらいたい」伝えられているのはただ一つ、義信の傅役である飯富兵部虎昌が義信を旗頭に信玄に謀反を企てたという事だけである。
信虎、信玄、義信と武田家三代に仕えた赤備え隊の猛将飯富兵部虎昌。彼の運命を変えたもの。それはいったいなんであったのであろうか。
武田信玄第32話上巻~処分~
「義信が切腹賜ってしまったらどうする!放せ!!」
「姫様!なりませぬ!」
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飯富兵部殿の謀反は一夜明け裏方へも達しておりました。三条殿と致しましては、息子義信と晴信の気性から居ても立ってもおられなかったのだと思います。
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詫びよ!
飯富殿は縄で戒められ中庭へと引き立てられております。広間には晴信、そして隠居した鬼美濃殿、此度の謀反を事前に察知した飯富三郎兵衛殿はじめ、信濃からも真田殿、高坂殿など重臣一同が揃っております。
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飯富殿は信虎殿の代から武田家を支えてきた重臣中の重臣であり家中の者からも敬愛されておりました。皆その表情は複雑でございます。
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「飯富兵部少輔!此度の謀反で何か申す事あるか?」
「ございませぬ!」
「ならば儂から問うが何故謀反を起こした?」
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飯富殿は「正義のため」「天の命に従い」謀反を起こしたのだと言います。盟約を結んでいる駿河への侵攻は不正義であると。しかし、そのような言葉を信じる者は誰もおりませぬ。
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「正直に申せ!真は我が嫡男太郎義信の命に従ったのであろう?」
「某の一存にございます」
「偽りを申すな!」
「偽りではございませぬ!」
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飯富殿は覚悟が決まっているようでございます。自分に切腹を命じるように願います。
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「皆のもの下がれ!」
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晴信は重臣達を別室へと去らせると、飯富殿と二人で話しをします。
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「飯富、儂に謝れ」
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晴信は飯富殿に過ちを認め詫びるように言います。そして、詫びれば今回の件は許すと。しかし、飯富殿は詫びるという事は不正義を働いた事を認める事であり、それは出来ないと応えます。
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「そちを死なせたくないのじゃ」
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晴信は飯富殿は武田家の重臣であり、そして晴信のため、甲斐のために多くの貢献がある。
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「儂が国主になるのを援け、それから二十有余共に戦ってきた」
「正直に申す」
「我が子義信の命奪ってもそちの命奪いたくはない」
「そちは我が甲斐にとって宝じゃ!」
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しかし、飯富殿は自分の一存で決めたのだと言うばかりでございます。
その決意を変える事は出来ませんでした。
切腹命令
「隠居して館を離れたらこの有様じゃ!」
「何故飯富殿を止められなかった!」
「お前達の眼は節穴か!」
「若殿の未熟を見抜けなかったとは言わさんぞ!」
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別室に集まった重臣達。
特に、飯富殿とは信虎殿代より共に仕えてきた鬼美濃殿は忸怩たる思いがあります。倉科三郎左衛門殿が反論します。
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「此度の謀反は飯富殿の不正義!若殿の未熟等口にされるな!」
「なんじゃと!!」
「静まれ!今そち達が争ってどうる!」
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信廉は二人を止めると、晴信の沙汰を待ちます。
そして。
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「誰か!飯富兵部の首を刎ねよ!」
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屋敷中に響く声で晴信の命令が下ります。信廉は飯富殿が率いていた赤備え隊には禁足を命じ、飯富殿の弟、三郎兵衛殿には家族へ事の次第を伝えるように言います。
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「介錯は儂にご命じ下され」
「うむ」
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鬼美濃殿は飯富の最期は自分が看取ると決めていたようでございます。
武田信玄第32話中巻~首謀者~
飯富殿へ切腹を申し付けた後、義信にも事情を問います。主殿には晴信と三条のお方が待っております。
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我が子を叩く
「昨夜、飯富等が我が命を狙ったため切腹申し付けた」
「?!」
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三条殿はこの時初めて飯富殿の切腹の件を知ります。
そして。
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「飯富に罪はございませぬ!我命に従ったまで」
「飯富はそちは何一つ関わらないと申しておる」
「それは飯富の忠義にございます」
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義信は晴信の命を狙ったのだと言います。
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「義信!!!(パン!)」
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三条殿もまさか我が子が夫の命を狙うとは・・・。三条殿は何度も何度も義信の頬を叩きます。
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「お願いにございます!義信をお許し下さい!」
「母上!某許しを請うつもりはございません!」
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義信に代わり、晴信に許しを請います。
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「飯富は武田家累代の重臣じゃが其の方の我儘で今失おうとしておる」
「我が命を欲したのならなぜ自ら太刀を取らなかった!」
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晴信は今回の謀反が露見した事情を話します。飯富は謀反など起こすつもりはなかった。だから、弟三郎兵衛殿にそれを打ち明け、命をもって義信を止めようと。
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「何故己の傅役をそのような窮地に追い込んだ!」
「飯富一人を死なせはしませぬ!」
「飯富一人ではない!いったい何人の赤備え隊の者が斬られたと思っている!」
「・・・切腹をお命じ下さい!」
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義信は晴信の不正義、父親を他国へ追放し、理不尽に他国を攻める事を詰り、晴信の命令で命を絶たれるのは本望と叫びます。
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「誰か!義信を閉じ込めよ!」
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その頃、三郎兵衛殿は飯富殿の妻まさ殿の元へとやって来ています。
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「兄は東光寺へと移されます」
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明日の朝の切腹の前に最期の別れをするべく、
共に東光寺へ同行するように願います。
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「若殿様にはどのような処分が?」
「若殿への処分はこれからにございます」
「では、八重殿は?」
「八重殿?」
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まさは謀叛の前日に八重が飯富殿を尋ねてきた事を伝えます。そして、八重が飯富殿に近づいたあの日のことが今回の件の繋がっていると言います。
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「その事、重大な事故他言をしてはなりませぬ」
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もし、その通りであれば三条の方へも疑いの目が向かう。
別れ
「甲斐のために生きたとは申せ、信虎様、信玄様を裏切った」
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飯富殿は妻まさ殿と東光寺にて最期の別れの挨拶をしております。
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「美しき正義等この世にない事を知りながら、事起ればその度に情に流された」
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飯富殿は妻まさ殿に苦労ばかり掛けた事を詫びます。まさ殿は飯富殿が亡くなれば後を追うと言います。
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「自分の分も生きて欲しい」
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飯富殿はそう願うのですが、まさ殿は泣き崩れるばかりでございます。
武田信玄第32話下巻~飯富兵部切腹~
我が子晴信はかつて謀反を起こし、父親を他国へ追いましてございます。その事を考えれば、今我が子に謀反を起こされるのは身を斬られる痛さにて、己の不徳を思わずにはいられなかったのでございます。
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鬼美濃と飯富兵部
明日、介錯を務める鬼美濃殿と飯富殿が最期の酒を飲んでおります。
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「我らの時代は終わった」
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原美濃殿、飯富殿は信虎殿と晴信の二代に仕えてきましたがここまで大国になるとは思っていなかった。
原殿は続けます。
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「この辺りが潮時かもしれん」
「よき武将は散るものじゃ」
「板垣殿、甘利殿、典厩信繁様、山本勘助殿(遠い目)」
「散れぬは儂ばかりじゃ・・・」
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原殿はまた、飯富殿が明日散る事を羨ましいとも言います。
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「謀反で散るは男子の本懐じゃ!」
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飯富殿もまた、介錯人が原美濃殿である事に謝意を伝えます。
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「多くは語れぬが、其方には礼を申す・・・」
「其方に介錯されるは我が喜びじゃ」
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翌日。
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「甲斐に幸いあれ!お願い申す」
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三代に渡り武田家を支え続けた飯富兵部少輔虎昌殿はついに散ったのでございます。
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「飯富兵部少輔虎昌が首にございます」
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晴信は原殿に介錯された飯富殿の首を検めます。ついに、甲斐の宝ともいうべき人材を1人失ってしまった。
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「義信を東光寺へ幽閉するのじゃ!」
暗闇
晴信は長善寺の岐秀和尚の元を訪ねておりました。
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「如何に抑えようとしても我が子への憎しみ生まれる」
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晴信は苦しい胸の内を岐秀殿に吐露します。飯富兵部を死に至らしめた義信が許せぬ。
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「生涯二度までも同じ事を繰り返す自分に鬼を感じる」
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岐秀和尚は親子が濃い血で結ばれているというのは誤りであると諭します。一心同体は母の胎内にいる間。
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一度この世に生まれ出でれば「己」が生まれる。この「己」というのは厄介ではありますが、これと付き合っていくしかないと。
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「悪しきモノから目を逸らせば」
「目を逸らせば悪しきモノのみ膨らむ」
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そこへ、次男の竜宝がやって来ます。
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「父上、竜宝お願いがあって参りました」
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竜宝は兄、義信の親不孝を許して欲しいと願います。そして、兄義信の不幸は父晴信の不幸であり、義信を許す事は、自分自身も許す事になると。
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「私、兄上の怯え心が見えます」
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竜宝は義信が怯えているのは、父晴信から暖かい言葉をかけてもらえない怯えであると喝破するのでした。
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その夜。
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東光寺に幽閉中の義信の部屋の外で人が斬り合う物音がします。
義信は暗闇の中怯えております。
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今宵は此処までに致します。
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